深刻化する環境問題への対応の一環として,マグネシウム合金を構造材料として利用した製品開発への関心が高まっています.マグネシウムの比重は1.74,これは鉄の約22%,代表的な軽金属のアルミニウムと比べても約64%であり,マグネシウムは実用金属の中で最も軽い材料です.このため,従来よりも軽くて強い構造物をつくることができ,結果として省エネルギー化への貢献が期待できます.航空機や自動車,身近なところではノートパソコンや携帯電話など小型電子機器の構造材料として,幅広い分野で近年急速に利用が拡大しています.
構造材料として広く利用されている金属材料をミクロの視点から見てみると,鉄鋼材料は体心立方構造(BCC),アルミニウム合金は面心立方構造(FCC)を持つ金属です.一方,マグネシウム合金は結晶構造として六方最密構造(HCP)を有しています.この構造の違いが材料挙動に大きな影響を及ぼすため,マグネシウム合金の挙動は従来の材料モデルでは十分に表現できないことが知られています.マグネシウム合金の大きな問題点の一つとして,特に冷間での加工性が悪いことが挙げられ,効率の良い製品開発のために,マグネシウム合金の変形特性をコンピュータシミュレーションで求める事へのニーズが高まっています.
このような結晶スケールの挙動を反映できる材料モデルの1つが結晶塑性モデルです.このモデルを利用することで,金属の微視構造を考慮したコンピュータシミュレーションを行うことが可能となり,より精度の高い材料挙動予測が可能となります.しかしながら,マグネシウムをはじめとするHCP金属への適用は歴史が浅く,未だ課題も多く残されているのが現状です.本研究テーマでは,結晶塑性モデルを用いたマルチスケール解析により,純マグネシウムやマグネシウム合金の材料挙動を明らかにし,マグネシウムを用いたものづくりに貢献できる数値解析手法の構築を目的としています.